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悲しみは地下鉄で

どっかで聞いたことのあるような不幸話。
元夫と死に別れ、今付き合ってる人とは別れたいが、別れられない。
別れると言うと、暴力をふるわれるから。
その肌には確かに無数の傷跡。
ビール瓶で殴られるんだと。
それで、男運が悪いという。

うん。
それは、運なのか。

そうか。
でも、そうゆう人に彼氏を育て上げているのは、あなたではないかと思ったりする心もあるが、決して口にはしない。
いかんせん、初対面。
さっき、1万3千円を渡して、知り合った仲だ。
欲望の為に呼んだはずなのに、欲望を正直に吐露することもできない。
知り合ったばかりで、もう出会うこともないだろうに、なにもさらけ出せない。

何をここまで来て見栄をはることがあるのか。
電話をして、お金を渡した時点で紳士ぶっても仕方ないではないかと思うのだが、それができない。
いっそ、欲望のままに押し倒して、無理やりなんて考えたけど、考える途中で放棄。
無理な妄想だ。

そういえば、この前の子とも、こうやって、欲望の為に呼んだのに、ただ話して、1万3千円を払った。
話すためにお金を払う。
それでもいいか。何もする気がおきない。
いや、おきないと思うようにしているのか。
この欲望を表に出せないだけだ。

女はまだ喋っている。
決してかわいいとは思えない。
その小柄な体系がかえって、その貧弱さを物語っている気すらする。
おなかがぽっこりしているのが見て取れる。
年は俺よりもいっこ上らしい。

不幸を話す。
会ったばかりの男に。
裸で話している。なんだか、この空間がとっても間抜けに思えてきた。
俺はといえば、ただただ、愛想を振りまき、話をきいているふりをする。

人間ってなんですか?
食えるんですか?
お金になりますか??

悲しみは、初対面の男に話すべきではない。
そう思う。
悲しみは、地下鉄で。
そっと。ながせばいい。
あの暗がりの中で。

それを時々見失い、表に出すことがある。
そんな時は、死んだ方がましだなと思う。

バイトで得た数少ないお金をこうやって、事あるごとに、デリヘルに使ったり、ソープに使ったり。
風俗とやらに使う。
でも、行っては、その子の話を聞くだけ。
見失わないように。
欲望を求め、でも、何もせずに帰る。
見失わないように。

青春時代は優しくて、残酷だ。
今は、ただ一筋の光も見当たらない。

悲しみは地下鉄で。
見失った僕は、死ねばいい。

俺は汗をかいて生きているか?

なんて思ってたら、女がこっちを見てるのに気づいた。
上目遣いで見ている。
男に媚びた目。

でも、その目は澄んでいる。
こうしてしか生きられない自分に悩み、自分で自分に軽蔑をしながらも、子供の為に、自分の為に生きようと決意をしたその目。
あまりかわいいとは思えなかったが、そのときだけは少しだけかわいいと思った。
生きようと決意をした眼は綺麗だ。

じゃ、死ねばいいと思っている俺の目はにごりまくっているだろう。
でも、そんな俺に、女は優しく言う。
「ごめんね。一回する?」と。
「いや、いいですよ」と、とってつけた笑顔をプラスして答える。

どっちが不幸か、それを単純に決めれば、いや、単純でなくとも、どっからどうみたとしても、彼女の方が不幸だ。
でも、彼女は生きようとしている目。
俺は死んだ目。

ふと、下ネタでも言って、その場を和ませようとも思ったが、できん。
下ネタがうまいこと言えない。
それもそうだ。こんなときにうまく話ができるようだったら、もっとうまく生きている。

なんだ、俺は。できそこないか。そんな感情。

時間を知らせるアラームが鳴り、女は帰り支度をする。
すごすごと洋服を着る二人。
滑稽だ。何もかもが滑稽だ。

帰り際。
「ね。もう呼んでくれないと思うから、言うけど、今日はありがとう。で、あなた、幸せになってね」
じっと、その目は俺の目を見ている。
「あ、はい。ありがとうございます」
と、返事をする。

うっかりしていた。
約束ができた。約束をしてしまった。
なら、守るしかない。
幸せになるまで、生きていかなくてはならない。

きついな。それ。
by entaland | 2010-12-21 00:45 | 妄想


明日の事は明日考えよう


by entaland

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